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もう当地では、完全に夏は去った。秋風が吹くので、夜にはストーブに思わず火を入れてしまうほどだ。というわけで、この夏に読んだ本のなかから四冊をピックアップしてみた。
【実況中継 トランプのアメリカ征服】町山智浩
これは、町山さん得意の映画分野の本かと思って読みはじめたのだが、新しい大統領についての笑える内容になっている。
「ポスト真実」という概念もおもしろい。ウソでもデタラメでも大声で言い続けていれば、それを信じる人たちが必ず出てくるという不思議な出来事は、日本でもよくみかける。人間は、自分で資料を集めて違う角度からも眺めてじっくり検討するということが基本的に不得意な生き物なんですね。
町山さんは、事実を積み重ねて冷静に結論が出せるクレバーな著者である。だからおもしろい本が書ける。なんの裏付けもないテキトーな推論を積み重ねたってエンタテイメントにはならないもの。そういう意味では、著者は「現場」主義のひとだ。続編を期待したい。
【熊が人を襲うとき】米田一彦
ツキノワグマと人間の接触事故についての資料を読みこんだ貴重な一冊。
クマがらみの事故といえば、明治時代の北海道で起きた「三毛別羆事件」が超有名で、ヒグマというのは恐ろしいもんなんだなあと刷り込まれたものだ。吉村昭の小説「羆嵐(くまあらし)」のモデルになったからよけいに。
でも人身事故の統計を見てみると圧倒的にツキノワグマがらみが多い。ぼくはこんなにもツキノワグマが人間にケガを負わせている生き物だとは知らなかった。ヒグマとの事故よりもずいぶん多くの人が亡くなってるんですね。自分の無知に驚いた。
いずれにしても、クマの住処におじゃまして山菜やきのこ、魚をいただこうというのだから、やっぱりクマに敬意を表しておく必要があるのだとぼくは思う。一番いいのは、彼らのテリトリーには入らないことだろう。
山や川を歩いていると、彼らの痕跡に出会うことがある。糞、木に付けられた爪跡、ケモノ臭、足跡、食事の跡、草むらの踏み分け跡……こういう痕跡が新しいときは長居をしないでさっさと退散するにかぎる。見知らぬよそ者が自分ちにいつまでもいたら、誰だってつまみ出そうとするに決まっている、わけで。
【好きなことだけで生きていく。】堀江貴文
彼はサービス精神旺盛なひとだったんだな。だから、叩かれた。同時期に仕事をはじめた楽天やサイバーエージェントの社長みたいに、自分の城から出ないでほかのひとにかまわず、自分の仕事をしていれば「ライブドア事件」(その後起きた日興コーディアルグループの粉飾事件とくらべても、結局なにが「罪」だったのかゼンゼンはっきりしない)は起こらなかった、のではないかと。
この本を読んでぼくはそう思った。この中で著者も書いているとおり「おせっかい焼き」なんだ。自分がやってきたことがうまくいったら、じっとしてられない。ほかのひとにも教えてあげたくなる。堀江さんはそんなひとなんだな。それはやっぱりサービス精神があるということだろう。基本的に親切なんだと思う。
それにしても。十年くらい前にさんざんホリエモンの悪口を言いつのり、判決が出たわけでもないのに「稀代の極悪人」であるかのようにイメージを操作しつづけたマスコミは、なにもなかったかのように今の彼にすり寄っている。いくら「一事不再理」とはいえ、かれを何年ものあいだ牢獄につなぐための手助けをしておいて、どのツラ下げて……と思う。
【田中角栄 最後のインタビュー】佐藤修
角さんは「例え話」がとても上手だった、とのこと。なるほどなあ、と思う。例える技術は相手を納得させる技術でもあるわけで、それにたいへん長けていたのですね、角さんは。だから、メキメキ頭角をあらわしていったんだ。学校に行くことなく、例える才能を自分で一所懸命磨いたのだ。イチローみたいにね。職人のできあがり方といっしょで、「叩き上げ」というやつ。
この本を読むと、この人もまた、資料をきちんと自分で読み込み、正しく分析して未来につなぐことのできる人材だったということがよくわかる。
角さんもそうだしホリエモンもそうだが、日本社会というのは、無一物からのし上がってきた人をケトバすようにできているのではないか。それにひきかえ、○○一族とか血縁や血統がらみは大好きなんだなあ。サラブレッドがお好きなんですね。